ジュンくん その2 (2009年度5月号より)

ジュンくんはお母さんの手を見るのが好きでした。
白く柔らかい暖かい手でした。その手はジュンくんにいろいろなことを教えてくれました。
ペンの持ち方、使い方、洋服のたたみ方、ボタンのとめ方、くつのはき方・・・
時には手をとって導いてくれたこともありました。暖かいその手に導かれて作業をする時
ほんとはなかなか出来ない事にイライラして、「ああ、手をどけてほしいなあ。」と思ったこともありました。
中でもお箸の持ち方を教えてもらった時は大変でした。

お母さんはお箸の一本を取り上げるとそれを人差し指と中指にあずけ、親指のふくらみを軽く添え、それだけで自由に動かして見せてくれました。それからもう一本を親指の付け根で受け、「これは動かさないの。」と多少大げさに動かしてお皿の上のものを次々に楽しそうに取ってみせるのでした。ジュンくんはまるで手品を見ているような気分でした。
さて自分でやってみる番になりましたが、なかなか上手く出来ません。
これは何ヶ月かかったかはわかりませんでした。
その間お母さんは大声を出すでもなく怒るでもなくジッと見ていて、ジュンくんがお願いする時はそっと手を添えて導いてくれました。

 こうやってお母さんの手はジュンくんのこれからの生活で必要ないろいろなことをたくさん教えてくれました。それらのことが出来た時ジュンくんの心に残っているのは出来た喜びと一緒にあんなに「ああどけてほしいなあ。」と思っていたお母さんの手の暖かさでした。
ジュンくんは思いました。「3つ年上のカナネエチャンもこうしていろんなことを教えてもらったんだろうな。」と。

 一つだけ逆にジュンくんがお母さんに手を添えて教えてあげたことがあります。
それは幼稚園のときに習ってきたお祈りの手でした。左右の指を交互にからみあわせてしっかり握るこの手の格好がジュンくんは好きでした。
ジュンくんは今思っています。お母さんからいろいろなことを教えてもらってる中でこんなにもそれぞれの指がその作業によってそれぞれの役割を果たしているのに、お祈りの時には、全部一つになる・・・
いつの日からか、お母さんも一人でお祈りをする姿を見るようになりました。
ジュンくんはあの柔らかい暖かい手が一つになっているのを見るのがとても好きです。

小学科4年担任 N.K


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