それは天からの希望の光のようにも聞こえます。

ヴラダン・コチさんのチェロ

コチさんのチェロ。陰影を生みだすと同時に、光を反射して七色に変わっていく純粋無垢の世界。
そしてそこには永遠が宿っている。


「収監されていた時作曲した曲が身に沁みました。経験が音楽を磨いたのだと思わされました。」
「コチさん作曲『深き淵より』は魂の叫びを奏でるような感銘深い音楽で素晴らしかったです。」
「自作の『深き淵より』の演奏は特に心に響きました」
「ご自身の経験を通して作曲された『深き淵より』がバッハの名曲を超えて心に響きました。」
「外は寒かったですがとても温かいコンサートでした。心の自由の大切さを感じました。」
「悲しみと苦しみ、力強い喜びと祈りがあふれ素晴らしい演奏会であった。」

 これらはヴラダン・コチさんが今年1月捜真教会でアムネスティ主催のリサイタルをしてくださった時、そのアンケートに寄せられた感想のごく一部です。多くの方に感動を与えた『深き淵より』という曲はコチさんが1989年、獄中で詩篇130編から霊的な力を与えられて作曲したものです。軍事政権下のチェコスロバキアで兵役を拒否したことで逮捕、収監されていた当時のことです。低い低いヨブのうめきのような旋律と、奥様と幼い息子さんを思わせるかすかな高い旋律が聞こえ、それは天からの希望の光のようにも聞こえます。一度聴いたら忘れられない心揺さぶる名曲です。
 コチさんが兵役を拒否したのは、自分は人殺しの訓練は出来ないという強い意志と、心の奥深くから聞える声を欺いたりごまかしたりせず、それに従って生きようとしたからでした。しかし軍事独裁政権下で国の命令に逆らうということは命を危険にさらすことです。
自由を奪われ、奥様と3歳の息子さんから引き離され、人間としての尊厳を踏みにじられ、刑事犯と同じ獄舎に入れられ、友人を失い、寒さと孤独のなかに置かれる結果をもたらしたのです。
コチさんは冷たい監獄の中でどんな気持ちで日々を過ごし、どんな思いでこの曲を作曲されたのでしょうか?

詩篇130編

 深い淵の底から、主よ、あなたを呼びます。
 主よ、この声を聞き取ってください。
 嘆き祈るわたしの声に耳を傾けてください。
 主よ、あなたが罪をすべて心に留められるなら
 主よ、誰が耐ええましょう。
 しかし、赦しはあなたのもとにあり
 人はあなたを畏れ敬うのです。
 わたしは主に望みをおき
 わたしの魂は望みをおき
 み言葉を待ち望みます。
 わたしの魂は主を待ち望みます
 見張りが朝を待つにもまして
 見張りが朝を待つにもまして。


Photo: 左からお嬢さん、奥様、息子さん、そしてコチさん。
1990年のベルリンの壁崩壊、それに続くプラハでのベルベット革命によってコチさんは再び自由を手にしました。そして今プラハ音楽院で若い音楽家を指導しつつ世界中で演奏活動を繰り広げています。世界にはチェロの名手はたくさんいます。でもコチさんはただ自分のチェロの技能や音楽の才能を披露し、名声を求めて演奏する方ではありません。大きな試練を経験し、自分の命と才能は神様の愛を人々と分かち合うために神様が与えてくださった特別な賜物なのだと信じ、ひとつひとつの演奏を全身全霊をこめてなさる方です。老人ホーム、子どもの施設、病院やホスピスなど、コンサートに足を運べない方のために自分から出かけ行って、多くの人々に音楽がもたらす癒しと喜びを届けています。ご家族も奥様と20歳のトーマスはチェロ、17歳のルーシーはバイオリンの奏者であり、毎夏スイス、オーストリアなどでファミリーコンサートツアーをしています。
笑顔が素敵な子煩悩なお父さんでもあります。

 今回再びコチさんのご好意で私たちの教会でチャリティーコンサートを開催できますことは大きな喜びです。主が豊かにコチさんを祝し、コンサートが主の栄光を現すものとなるよう祈りつつみんなで力を合わせて働きたいと思います。

文責 遠藤真理
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