インタビュー「不思議なオルガン・価値あるオルガン」

捜真バプテスト教会のオルガン製作を委託するマナ・オルゲルバウは、マイスターの松崎譲二氏、中里威氏が上野奏楽堂のオルガンを修復したことに端を発して今日に至っています。今回はその上野奏楽堂のオルガンを修復を記した書籍のインタビューを通して、彼らのオルガン製作にかける想いにスポットをあてたいと思います。
奏楽堂のパイプオルガンの組み立て作業中(昭和六十二年七月)のインタビューよりマナオルゲルバウ様、東京新聞出版局様の許可を得、抜粋させていただきました。
■音の出だしと消え方を揃える

----  もともとこの方式のオルガンは音の立ち上がりが遅いんでしょう。

中里  それは空気アクションの特質ですからやむを得ない。問題はそのことでなく、いかにデコボコをなくし、平均して音を出すかということです。

松崎  つまり音の出だしと消え方を一定に揃えるという意味です。要は皮の空気袋をいかにうまくふくらませたり、へこませたりするか、そのネジ加減ですね。でもその点は、前よりも復元後のほうがずっと良くなると思いますよ。
■いい音を出してみます。

----  オルガンの調律・整音は、なかなか大変なんでしょう。

松崎  オルガンのパイプは、ちょっとさわっただけでも音が変わる微妙な口の部分があるんですが、古いパイプは、それが折れたり、つぶれたりしていたので、まずはそれを直すこと。その上で音色や全体のバランスの調整が必要になります。

----  オルガンの音色は、風の流れでかわるんですか。

松崎  風の流れ、強さ、風のぶつかり方、いろんな要素があります。原理はタテ笛(リコーダー)と同じなんですがね。つまり、うすいすき間から空気が飛び出し、その空気の帯がエッジに当たってゆれる。その風の当て方、風の向き、量などで音色が変わる。それを耳で聞きながら、自分の経験を頼りにいろいろ変えてゆくわけです。そのために、オルガンのパイプは、鉛や錫といった柔らかい素材を使い、自由に変えられるようにしてあります。
----  復元後、このオルガンがどんな音で鳴るか・・・楽しみになってきました。
中里  復元といっても、音色だけは前のとおりの復元ではダメです。当時の日本には技術者がいなかったし、解体時の調査で、あまりいい音が出ていなかった筈だと思いました。今度はそのオルガンが本来持っている長所を生かして、ずっと良い音を出して見せますよ。

----  ただ奏楽堂は、弦の演奏などは木質ホール特有のよい響きがしますが、もともとパイプオルガン向きに作られていないでしょう。後でオルガンをはめこんだので、音響効果の上でハンディがあるのでは..。

中里  われわれの仕事は、第一義的には、オルガンのパイプ自体を目いっぱいよく鳴るようにすることにありますが、同時にホールの特殊条件を全部考慮に入れて、会場全体にどう響かせるかという工夫も当然求められるわけで、そういう計算も含めて、今整音を進めているところです。

■古きものに学ぶ

----  今日本では新しい機能を備えたパイプオルガンが増えていますが、あえて古い楽器を再生することの意義についてどのようにお考えですか

松崎  確かに最近日本ではパイプオルガンは毎年何十台も増えて、現在三百数十台に達しています。しかし、いまのもののほうが弾きやすいからとか便利だからとかといって、古いものは捨ててしまえという考えは、絶対間違っていると思います。〜中略〜 もう古いとかなんとかいうことはとんでもないことです。古いものを捨てるどころか、まだまだ古いものを研究し学び直す段階なんです。今度の作業に従事してみて、そうした意味での古楽器再生の意義ということを改めて痛感しました。オルガンだけでなく、今回の奏楽堂問題全体がよい反省材料だったと思います。
中里  私も全く同感です。それと私たちの立場から最後にお願いしたいのは、奏楽堂がオープンしたら、どしどしオルガンの演奏会を開いていただきたいということです。楽器は弾き込めば弾き込むほどよい音が出るようになりますから..。

(出展:上野奏楽堂物語 東京新聞出版局編)
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